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気孔閉じぬエコタイプを発見(

モデル植物シロイヌナズナのエコタイプには、乾燥時にも気孔を閉じないものが存在する

システム生命科学府の門田さんらの研究グループは、約700系統あるシロイヌナズナのエコタイプの中から、二酸化炭素濃度や湿度を変化させても気孔が閉じない系統を発見しました。このエコタイプCvi-0は、乾燥時に気孔を閉じるよう作用するアブシジン酸に対する感受性や、孔辺細胞内の有機酸・イオン環境が他のエコタイプと異なっていました。気孔開閉のメカニズムを知る手がかりとして注目されます。

門田 慧奈(システム生命科学府)

シロイヌナズナには多くのエコタイプが存在する

シロイヌナズナは北半球を中心に世界中に広く分布しているアブラナ科の植物で、植物の研究に最もよく用いられる種としても有名です。

一口にシロイヌナズナと言っても、見た目や性質は生息地ごとに異なっています。この違いはエコタイプと呼ばれ、シロイヌナズナには全部で1,000系統以上のエコタイプが存在します。

エコタイプの形質が生息地ごとに違うのは、それぞれが生息地の環境に適応しているからだと考えられます。エコタイプの環境応答性の違いを比べることで、植物が環境の変化にどのように適応してきたかを知る手がかりを得ることができます。

気孔の開き具合が違うエコタイプを発見

植物の重要な形質の1つに気孔の開閉があります。気孔とは葉の表面にある小さな穴のことで、2つの孔辺細胞からできています。植物は気孔を開いて光合成に必要な二酸化炭素を取り込んだり、周りの湿度が低くなると体内の水分が失われるのを防ぐため気孔を閉じたりします。

門田さんらの研究グループは、シロイヌナズナのエコタイプ約700系統について、二酸化炭素濃度や湿度を変化させ、気孔の開き具合に違いがないかを調べました。その結果、Cvi-0という西アフリカ原産のエコタイプが他のエコタイプとは異なる気孔の開き方を示すことを発見しました(図1)。

図1
図1 Cvi-0は気孔の環境応答性が他のエコタイプとは異なる。(a) 標準的なシロイヌナズナエコタイプであるCol-0(左)と、異なる気孔応答を示すエコタイプCvi-0(右)。(b) 気孔開度を指標とした二酸化炭素応答性の比較。(c) 気孔開度を指標とした湿度応答性の比較。

Cvi-0の気孔は、標準的なシロイヌナズナのエコタイプであるCol-0の気孔と比べ、二酸化炭素や湿度を変化させても開き具合があまり変化せず全体的に開き気味でした。これは、遺伝子を人為的に変異させず自然環境下で気孔がまわりの環境変化に応答しなくなったとてもまれな例です。

気孔の開き具合が違うのは、アブシジン酸への感受性や孔辺細胞内の環境の違いが原因か?

気孔の開閉はアブシジン酸という植物ホルモンで調節されており、アブシジン酸の濃度が高くなると気孔が閉じることが分かっています。Cvi-0の気孔が閉じなくなっている仕組みを調べるために、湿度を低くした時の体内アブシジン酸蓄積量が時間とともにどう変化するかを測定しました。

その結果、Cvi-0は気孔を閉じにくいという表現型に反して、低湿度環境でCol-0の2倍以上のアブシジン酸を合成していることが分かりました(図2a)。そこで今度は、剥がしたCvi-0の表皮にアブシジン酸を直接添加して気孔開度を測定したところ、アブシジン酸を添加しても気孔が閉じないことが明らかになりました(図2b)。つまりCvi-0は、アブシジン酸を合成する能力はもっているが、気孔のアブシジン酸感受性を失っているということが分かりました。

図2
図2 Cvi-0のアブシジン酸応答性。(a) 低湿度ストレスに対する体内アブシジン酸蓄積量の推移。(b) 気孔開度を指標としたアブシジン酸応答性の比較。

植物は気孔を閉じるとき、カリウムイオン(K+)や塩化物イオン(Cl)、リンゴ酸を孔辺細胞の中から外へ排出します。この細胞内外の有機酸・イオンのバランスが崩れると、気孔をうまく開閉できません。そこでCvi-0の孔辺細胞内の有機酸および無機イオンの含量を測定しました。その結果、Cvi-0はCol-0に比べてカリウムイオン、塩化物イオン、リンゴ酸の含量が多くなっており、気孔が閉じにくい有機酸・イオン環境になっているということが分かりました(図3)。このことが、Cvi-0の気孔が閉じにくい形質と何らかの関係があるのではないかと考えられます。

図3
図3 孔辺細胞内のリンゴ酸および無機イオン含量の比較。

生態学ではエコタイプを使った研究が進んでいますが、植物生理学の分野ではエコタイプの研究はあまり行われていません。今後の展開について門田さんは、「Cvi-0のように特徴的な形質をもつエコタイプの研究をさらに進め、植物生理学におけるエコタイプの有用性を追求していきたい」と話しています。

より詳しく知りたい方は・・・

タイトル
Environmental regulation of stomatal response in the Arabidopsis Cvi-0 ecotype
著者
Keina Monda, Juntaro Negi, Atsuhiro Iio, Kensuke Kusumi, Mikiko Kojima, Mimi Hashimoto, Hitoshi Sakakibara, Koh Iba
掲載誌
Planta 234:555–563 (2011)
研究室HP
植物生理学研究室
キーワード
Cvi-0、気孔、二酸化炭素、アブシジン酸