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 国立大学法人10大学理学部長会議では、事業仕分けに対して緊急提言を発表致しました。
平成21年11月24日(火)
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緊 急 提 言
事業仕分けに際し、“短期的成果主義”から脱却した判断を望む
−科学技術創造立国を真に実現するために−
国立大学法人10大学理学部長会議
平成21年11月23日
(参加大学:北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、広島大学、九州大学)
 現在、行政刷新会議による「事業仕分け」が進行中です。予算の効率的な使用を目指し、無駄を排除することは当然のことであり、かつ、議論や結論に至る過程を公開することも望ましいことであります。ここに、関係者のご尽力に敬意を表するものです。しかしながら、科学技術・学術研究と次世代人材育成についての事業仕分け前半の結果を見ますと、後世に憂いを残すような判断が下されたのではないかと危惧の念をもたざるをえません。例えば、我が国の科学技術研究の基盤設備となる「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」事業は、世界一を目指す必要があるのかというような、科学に従事する者には受け入れがたい理由で「事実上の凍結」との判断が下されました。女性研究者支援事業や若手研究者育成事業など、今後の科学技術の発展を支えるための重要な施策に対しても、予算縮減等の判断が下されております。このような判断に至った背景には、短期に成果が上がる研究や、産業振興に直接結び付く研究を重視する、という考え(“短期的成果主義”)があるのではないでしょうか。11月24日からは、事業仕分けが再開され、国立大学法人運営費交付金や大学等奨学金、大学教育改革の支援事業など、科学技術・学術研究と次世代人材育成の基盤に関わる多くの事業が対象となる予定です。この事業仕分けの後半においても、“短期的成果主義”の観点から拙速な判断がなされることを危惧し、大きな危機感を抱いて、ここに緊急提言を行うものです。
 私達、国立大学法人10大学理学部長会議は、まず、事業仕分け前半でなされた科学技術・学術研究や次世代人材育成に関わる事業に対する判断の再考を求めます。事業仕分け後半においては、“短期的成果主義”から脱却し、基礎科学が有する特徴と、基礎科学を担っている国立大学法人を含む学術機関が置かれている現状に十分に配慮し、適切に判断されることを強く望みます。科学技術創造立国を目指す我が国が、人類の持続的繁栄に世界の先頭に立って貢献していくという観点からの議論を願うものです。
 私達は、事業仕分け後半の議論に当たり、とりわけ科学技術・学術政策に関して以下の三点を提言いたします。
(1)「国立大学運営費交付金」などの基盤的経費の拡充を
 過去五年間にわたり、国立大学法人運営費交付金が毎年1%の割合で削減され、また、教育研究・学術分野に過度の競争原理が持ち込まれました。このため、教職員の定員を削減せざるをえず、教育研究活動の足元が次第に掘り崩されています。特に、基礎的な学問である理学の分野には、極めて深刻な影響が現れています。現在の最先端の科学技術は、長い時間をかけた基礎科学研究の上にこそ花開くもので、これをおろそかにすることは、近い将来の我が国の科学技術を根底から崩壊させるものと考えます。 大学のもう一つの使命である人材の育成を担保する質の高い教育も、教職員の定員削減により大きく損なわれようとしています。科学技術創造立国を目指す我が国の、次代を担う研究者や技術者の養成が危ぶまれているのです。私達は、国立大学法人運営費交付金などの基盤的経費を回復することのみならず、更なる拡充を強く求めます。
(2)「科学研究費補助金」の拡充を
 近年、確かにごく一部の研究者に研究費の過度の集中がみられます。仕分け作業では、その反動かもしれませんが、競争的資金に対しての誤解が見られます。いわゆる競争的資金の中でも、文部科学省と日本学術振興会が所掌する「科学研究費補助金」(科研費)は、研究者の自由な発想による申請に対し、多くの研究者が時間をかけ、厳正な審査に基づいて配分されており、我が国の科学技術・学術研究の発展に、筆舌出来ないほどの多大の貢献をしてきました。我が国が誇るノーベル賞研究のほとんどが、この科研費のなかで生まれたものといっても過言ではありません。短時間に少数の審査員で決められた高額な競争的研究資金と、我が国の学問研究に不可欠な役割を果たしてきた科研費などの研究費を同一視し、削減対象とすることは決してあってはならないことです。
(3)人材育成のための安定的な経費配分を
 我が国の大学や大学院の学費は世界でも突出して高額であり、一方で学生への経済的援助は貧弱な状態で放置されてきました。欧米諸国では、奨学金は給付を意味しますが、我が国ではそのほとんどが貸与であり、先進国の常識からは大きく逸脱しています。欧米諸国においては、大学院教育は学生本人や研究機関の利益のためではなく、広く社会に貢献できるような高度な能力をもつ人材の育成を目指すものとして、公的に支援すべきものされています。私達は、「給付型」奨学金制度の確立を要望します。 また、博士研究員(いわゆるポスドク)は、前人未到の研究課題に取り組み、将来ノーベル賞など世界に認められるような研究となることを夢見て、日夜研究に励む一人前の研究者であります。そして、ポスドクは、世界最先端にある我が国の科学技術研究の現場を支える重要な基盤的要素になっています。ポスドクの雇用は、決して博士課程修了者への生活保護でもなく、セーフティネットでもありません。ポスドクの活躍は、定員削減で疲弊した大学・研究機関の活力を取り戻す鍵ともなっています。我が国の科学研究の将来を担う優秀な若手研究者の成長を支え、夢を与える施策に安定的な予算配分がなされることを強く要望します。
<平成21年度 国立大学法人10大学理学部長会議 構成員>
北海道大学 山口 佳三
東北大学 花輪 公雄
筑波大学 宮本 雅彦
東京大学 山形 俊男
東京工業大学 岡   真
名古屋大学 國枝 秀世
京都大学 吉川 研一
大阪大学 東島  清
広島大学 出口 博則
九州大学 宮原 三郎
<付 記>
 国立大学法人32大学理学部長会議は、本年10月9日に「理学の教育と研究に対する基盤的支援の充実について(提言)−かけがえのない自然を理解し、共存する豊かな人類社会を実現するために−」(以下のウェッブサイトに掲載)と題する提言を行いました。また、この提言とともに、近年の基盤的経費の減少や過度の研究費の集中の弊害などに関する資料も公開されています。今回の緊急声明と併せて一読されるよう願うものです。

(PDFファイル)・理学部長会議提言書〜理学教育と研究に対する基盤的支援の充実について〜
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