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界面物理化学研究室

スタッフ

  • 荒殿 誠 教授
  • 松原 弘樹 准教授
界面活性剤は、親水性の頭部と疎水性 (親油性) の尾部を合わせもった構造をもつため、空気 / 水、油 / 水界面に吸着して単分子膜を形成します。吸着膜には3次元の気体、液体、固体に相当する、気体膜、膨張膜、凝縮膜という3つの膜状態が存在し、これらの状態の間で相転移が起こると、その界面の物性は不連続に変化します。九州大学 界面物理化学研究室では、吸着膜の相転移、ならびに界面活性剤を2成分混合した場合に現れる様々な吸着膜状態を、界面張力測定とその熱力学的な解析を中心とした巨視的な視点と、界面への各種分光法の適用による微視的な視点で長年研究し、近年はこれらの情報をもとにして、巨視的、微視的、2つの立場から十分に構造が把握、制御された界面を研究対象として、泡や乳化の問題へ展開を図っています。

1. 吸着膜の相図

 わたしたちの研究の強みは、独自に展開してきた厳密な界面張力の熱力学理論にもとづいて、吸着膜の状態を二次元の相図として把握できることです (M. Aratono et al., J. Colloid Interface Sci., 1998, 200, 161)。例えば、イオン性界面活性剤の溶液濃度をChart?cht=tx&chl=m 1、非イオン界面活性剤の溶液濃度をChart?cht=tx&chl=m 2とし、イオン性界面活性剤が水溶液中で界面活性剤イオンと対イオンに解離することを考慮して界面活性剤の全溶液濃度をChart?cht=tx&chl=\hat{m} = 2m 1 %2b m 2、界面活性剤溶液の組成を \hat{m}と定義します。

Phys interface 01

 右の図は、溶液組成を一定として、界面活性剤水溶液の表面張力を全濃度の関数として測定したもので、熱力学によると、この図から、それぞれの溶液組成で、ある表面張力 (図中の赤線) を実現するのに必要な界面活性剤の全濃度を抽出して、下の図の実線を描き、その傾きに次式を適用すると、吸着膜の組成 (破線) を計算することができます。
Chart?cht=tx&chl=\[ \hat{x} 2^{\rm{h}} = \hat{x} 2 \frac {\hat{x} 1 \hat{x} 2} {\hat{m}} \( \frac {\partial\hat{m}} {\partial\hat{x} 2} \) {t,p,\gamma} \]
このようにして作成した吸着膜の相図は一般に界面活性剤の溶液組成と吸着膜中での組成が大きく異なることを教えてくれます。しかしながら、泡や乳化に関するこれまでの研究の多くは、このような違いを十分に考慮せずに行われています。わたしたちは、吸着膜組成をきちん把握して実験を行えば、泡や乳化の研究で問題となっている様々な現象に新しいアプローチができるはず!という立場で研究を進めています。

2. 吸着膜相転移が誘起する泡膜の膜厚転移

 シャボン玉の膜は、薄い水溶液膜の両側にそれぞれ界面活性剤が吸着してできています。専門的にはシャボン玉膜のことを泡膜と呼んでいます。シャボン玉膜は最終的には破れてしまいますが、例えば、界面活性剤の親水基が+に帯電していると、水溶液膜を挟んで+の電荷を帯びた吸着膜が反発しあうことによって、シャボン玉膜は薄くなりにくく、したがって壊れにくくなります。このように吸着膜間の電気的な反発によって安定化している泡膜をコモン黒膜こくまくといい、電気的な反発力が弱く、親水基の水和層が接触して、その力学的な反発力が安定化の主たる要因となっているものをニュートン黒膜といいます。下の図は陽イオン界面活性剤の1つ、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム (CTAB) の吸着膜テトラデカン (C14) を加えて混合吸着膜を作り、膨張膜 (L) から凝縮膜 (S) への相転移によって泡膜の厚さがどのように変化するか測定したものです。この例では、相転移と同時に泡膜が不連続に薄くなっており、吸着膜相転移は泡膜の安定性を切り替えるスイッチとして応用できることを示しています。

Phys interface 02

3. 吸着膜のダイナミクス

 一般に泡膜は虹色の光彩をもつ厚い膜から、コモン黒膜、ニュートン黒膜を経て破泡します。しかし、実際にはニュートン黒膜が非常に長い時間安定になる場合があります。ニュートン黒膜の安定性はそれを構成する吸着膜自身の力学特性、特に、表面粘弾性に大きく依存します。下の図の赤い曲線は、疎水基の長さが異なる2種類のリン脂質からなる混合吸着膜の表面弾性の値を示しています。同時に示した点線は、2.で示した吸着膜の相図で、吸着膜の組成を表す曲線と吸着膜中での理想混合線の差から計算される吸着膜中での分子間相互作用の強さを表しています。実験結果は、吸着膜中での異種分子間相互作用が最も強くなる (点線が極小値を取る) 組成において、表面弾性の値が極大値をとっており、ニュートン黒膜の安定性は、吸着膜中での分子間相互用によって制御できることを示唆しています。リン脂質は親水基に+の電荷と−の電荷の両方をもっており、親水基の位置を上下にずらすことにより、隣り合ったリン脂質同士が静電引力を獲得することができます。このとき、疎水鎖の長さの違いを親水基の上下方向のずれと同程度にしておくと、疎水鎖間のファンデルワールス引力も同時に促進され、吸着膜は横方向に働くこれらの引力によって硬くなり、高い弾性値をもつことによって、泡膜は壊れにくくなります。

Phys interface 03